臨床医は、電子健康記録(EHR)の記録作成に患者ケア8時間当たり2.3時間を費やし、とくに入力作業が勤務時間外の場合は燃え尽き症候群と関連するとの報告があり、EHRの負担は診療能力や患者の受診機会、医療の質を損なう可能性が指摘されている。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のLisa S. Rotenstein氏らは、拡張性の高い代替手段とされる人工知能(AI)を活用した環境型記録補助ツール(AIスクライブ)の導入により、わずかとはいえEHRの操作時間および文書作成時間が短縮し、週当たりの診察件数が増加することを示した。研究の成果はJAMA誌オンライン版2026年4月1日号に掲載された。
米国5施設の外来医を導入の有無で比較
研究グループは、AIスクライブの導入と、EHRへの時間の負担および診察件数の変化との関連を評価する目的で、縦断的コホート研究を実施した(Advancing a Healthier Wisconsin Endowmentの助成を受けた)。
2023年6月~2025年8月に、臨床医向けにAIスクライブを導入した米国の5つの学術的医療機関で外来診療に従事する臨床医を対象とした。
AIスクライブの導入とは、AIスクライブへのアクセス権の取得を意味し、導入の可否は5施設のうち4施設で、対象となる医師による事前承認に基づき決定した。
EHRの操作に費やした時間、文書作成に費やした時間、および勤務時間外または勤務日以外にEHRの操作に費やした時間を、予定された患者の診察時間8時間当たりに標準化し、週当たりの受診件数を評価した。
勤務時間外のEHR操作時間には変化がない
8,581人の臨床医を対象とした。AIスクライブ導入者は1,809人、非導入者は6,772人だった。参加者の57.1%が女性であった。専門分野の内訳は、プライマリケアが24.4%、内科系が62.4%、外科系が13.2%であった。また、74.1%が指導医(フェローを含む)、18.1%がAPC(Advanced Practice Clinicians)、7.8%が研修医だった。
差分の差分法による解析の結果、予定された患者の診察時間8時間当たりに標準化すると、AIスクライブ導入により、EHRの操作時間が13.4分(95%信頼区間[CI]:9.1~17.7)短縮し、文書作成時間は16.0分(95%CI:13.7~18.3)短縮しており、週当たりの受診件数は0.49(95%CI:0.17~0.81)増加した。
一方、勤務時間外のEHR操作時間は3.1分(95%CI:-0.50~6.80)短縮したが、この変化は有意ではなかった。また、AIスクライブ導入による変化が最も顕著だったのは、プライマリケア医、上級医、女性臨床医のほか、診察の50%以上でAIスクライブを利用した医師であった。
さらに、AIスクライブの導入は、医師1人当たり月に167.37ドル(95%CI:86.52~248.21)の収益の増加をもたらした。
節約時間を他の患者ケア活動に振り向けた可能性
著者は、「診療時間の半分以上をAIスクライブの使用に費やした医師は格段に大きな利益を得たものの、これほど頻繁に利用した導入者は約32%にとどまっており、導入者に対する充実した研修と支援の必要性が明らかとなった」「今後は、本試験の結果の持続性と再現性の評価とともに、この技術の利点を高めることができる具体的な診療の手順と支援策について検討すべきと考えられる」としている。
また、「注目すべきは、AIスクライブの導入による文書作成時間の短縮が、EHRの総所要時間の短縮を上回ったこと、および最終的に勤務時間外の業務に有意な変化をもたらさなかった点である。これは、医師が、節約できた時間を他の患者ケア活動に振り向けた可能性を示唆する。AIスクライブはEHRに費やす時間を大幅には削減しない可能性があるが、この技術が燃え尽き症候群の軽減に有効とのエビデンスを考慮すると、医師は文書作成から解放された時間の再配分を価値あるものと捉え、これが医師の満足度の向上に寄与している可能性がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)